肥後守で鉛筆を削る小学生たち

肥後守(ひごのかみ)ってご存知でしょうか。
ワタシたちの子供の頃は、金物屋や駄菓子屋でよく売っていた、子供向けの折りたたみ式小刀です。今発売中の『ナイフマガジン』(ワールドフォトプレス)の特集は、その懐かしのナイフ・肥後守。
画像

かつての大産地は兵庫県三木市で、ここではいま永尾さんという一軒だけが、昔ながらの量産タイプの肥後守を作り続けています。

編集部の服部さんによると、ノスタルジーもあって、最近、肥後守は静かなブームを呼んでいるそうです。高級素材で肥後守タイプのナイフを作るナイフ作家も増え、いずれも人気を博しています。

この号の取材で、児童全員が肥後守を持ち、鉛筆を削ったり工作をする取り組みを25年にわたり続けている小学校に行ってきました。

詳しくは同誌をご覧いただきたいと思いますが、これが相当な感動モノ。
まずは写真を見てください。
画像

どうです、この堂々たる手つきと指配り。6年生のY君が鉛筆を削っているところを撮らせてもらったのですが、完璧な鉛筆の削り方です。
刃物を使うときに大事なのは、道具を握る利き手もさることながら、対象物を支える反対側の手の連動。その基本がしっかりできています。ナイフの背を押し出す親指と、鉛筆をしっかり保持する人差し指。そして、鉛筆を逆方向に引っ張る中指、薬指、親指の滑らかな運び。
これらは経験を詰まないと身につかない所作で、自転車に乗るのと同じで、本を読んだりバーチャルゲームを体験したからといってできるものではありません。
刃の角度の入りがやや深いのは、鋼材が汎用品のためで、もっと切れのよい鋼材であれば、さらにシャープな削り角になることでしょう。

Y君たちは入学のときに全員がPTAから肥後守をプレゼントされます。
そして、これで勉強に使う鉛筆を削るのがお約束。
学校には鉛筆削り器もありませんし、手洗い場には刃を研ぐための砥石まであります。
はじめはぎくしゃくしていますが、6年生ともなれば、全員が刃物遣いの手馴れとなります。

卵が割れない、りんごの皮がむけないなど、不器用になる一方の子供たちの指先を案じた25年前の校長先生が保護者の同意を得てはじめた運動だそうです。

毎年、刃物によるさまざまな事件が世間を騒がせています。
事件=刃物というイメージから、子供に刃物を使わせない流れが、さまざまなところでできあがってしまっています。
工作のテキストにカッターナイフの絵を入れたら、保護者から「危ないことをすすめるな」とクレームがついたなんていう話を、以前、児童向け書籍の編集をしている知人から聞いたこともあります。

肥後守がノスタルジックな存在になっているのも、そんな刃物排除ムードの流れを受けたもので、じつに半世紀にもなる社会の流れなのですが、戦闘用の特殊なナイフを除けば刃物はもともと人の暮らしを助けるものです。
人が他の動物と異なるのは、道具と火を操れること。
文明はいわば利器によって築かれたともいえるのですが、不幸なことに、その象徴であり根本的なツールである刃物をタブー視する風潮が広がってしまいました。

指も切った経験のない子に、刃物の危険性はむしろわからないでしょう。
自らの手でモノを生み出したことのない子に、モノの本当のありがたみはわかりません。
時間をかけて何かをなしとげる、あるいは無から有を作り出す経験のない子に、リアルな達成の喜びはあるでしょうか。

スキャモンという学者は、人間の感情と運動神経は連動していて、そうした能力の成長は12歳ぐらいまで完成するといっています。つまり鉄は熱いうちに打ったほうがよいということですね。

この会染小学校という長野県にある小学校の取り組みは、社会の今後と子供の育て方について、じつに大切なことを提言しているように感じました。


" 肥後守で鉛筆を削る小学生たち" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント